上士幌町は北海道の中でも比較的気候が涼しく、暑さに弱い牛の飼育には恵まれた環境であるため昔から酪農業が盛んです。
酪農の仕事は、搾乳作業、清掃、エサやり、繁殖、子牛の世話、牧草作りやエサ作りなど、朝早くから夜まで仕事は続き、動物が相手なので365日休みもありません。
出産後の牛を一日でも搾乳せずに放置すると病気になってしまうことがあるため、毎日搾乳する必要があるそうです。
定期的な休みを取りにくい仕事に励む酪農家に、気軽に休んでいただけるよう、上士幌町では酪農家の代わりに牛の世話を行う『酪農ヘルパー』の雇用の充実や利用促進に向けた取り組みが行われています。
町には、自ら従業員を雇うような企業型経営をしている酪農家もみられますが家族だけで経営する酪農家が多く、冠婚葬祭や病気、怪我など、また家族での休暇が必要となる際に酪農ヘルパーはとても重要な存在です。
そこで今回は、上士幌町で酪農を営んでいるご家族に、酪農ヘルパーの実際の活用方法について伺ってきました。
やりがいと生きがいを感じる職場環境へ
上士幌町に、酪農をはじめて今年で100年を迎える酪農家がいます。
上士幌町ふるさと納税の返礼品で人気のアイス『十勝もーもースイーツ』の生産者でもある高木牧場さん。
創業以来家族経営の高木牧場さんも、酪農ヘルパーを利用したことがあるそうです。
高木社長に現在の牧場での働き方についてお話を伺いました。
「私が子どもの頃は、酪農家に休みがないことは仕方のないことだと思っていました。家族旅行の思い出もないです。(笑)しかし、いまは酪農ヘルパーがいるので、休みをとって家族で東京に遊びに行ったりしています。」と高木さん。
高木牧場さんは、酪農ヘルパーの力も借りながら堅実な経営で徐々に事業規模を拡大。
昨年牛舎の老築化に伴い牛舎を新設したそうです。新しい牛舎にはこだわりがたくさん詰まっていると教えてくれました。
「この牛舎は東京の有名なデザイナーさんにデザインしてもらいました。東京と北海道と距離はありましたが、じっくりと話し合いながらプロジェクトを進めることができたのでとても満足しています。」と、当時のことを振り返る高木さん。
屋根に大きく『Dairy Farm Since1918 TAKAGI』と書かれている新しい牛舎は、遠くからでもすぐ高木牧場さんの牧場だとわかるほどインパクトのある立派な牛舎です。
また牛舎内では20年前から興味があった搾乳ロボットを導入。中も理想の牛舎を追い求めてじっくり吟味したそうです。
「酪農家にとって自由に休みが確保できるだけでも嬉しいことですが、酪農ヘルパーに牛舎を任せることができれば、気持ちにゆとりを持ちながら牧場の改善点や、将来のビジョンについてゆっくり考えることができるので、本当にありがたい存在です。」と高木社長。
長く、楽しく働くために、酪農ヘルパーは大切な役割を果たしていることが伺えました。
優良な人材を気軽に確保できる仕組みづくり
上士幌町には、町内の酪農家が出資して立ち上げた『上士幌町酪農ヘルパー有限責任事業組合』があり、酪農ヘルパーはこの組合の職員として雇用されます。
酪農家が利用するときは、1回あたりの利用料を組合に支払い、酪農ヘルパーは要請のあった牧場へ派遣されます。
毎日忙しい酪農家が自分のために人材を探すのは一苦労。そのため組合では、酪農ヘルパーを職員として確保し、急に人手が必要となった時に対応できるよう体制が整えられています。
しかし、酪農業を基幹産業としている他の地域からの需要も高く、人材確保が難しい状況です。
そこで上士幌町酪農ヘルパー有限責任事業組合は、労働条件や労働環境について細かく整備を進めています。他の地域と比べて遜色ないような給与設定をし、賞与や退職金の準備もできています。さらに通勤手当や職員住宅などの福利厚生も充実させて働きがいのある環境づくりを進めています。
しかし、酪農ヘルパーを確保するために労働条件を向上させると、組合の運用費用がかさみ、酪農ヘルパーの利用料金を高くする必要性が生じます。利用料金を高く設定すると、酪農家の経済的負担は大きくなり、酪農家が気軽に酪農ヘルパーを利用することが難しくなります。
そこで利用料金が高くならないよう、町は上士幌町酪農ヘルパー有限責任事業組合に対して助成を行っており、この助成金の一部に、皆さまからお寄せいただいた寄付金も活用させていただいております。
今後も基幹産業である酪農を支えるため、皆さまのお力もお借りしながら地域一丸となって地元酪農家をサポートしていきます。